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大野洋子
 

サーカス・シルクール

2014年1月17日〜22日の旅程で、スウェーデンにCIRKUS CIRKOR(サーカス・シルクール)を観に行ってきました。サーカス・シルクールという名前は、フランス語で「サーカスとハート(Cirque' and' Coeur)」を意味するのだそうです。

サーカス・シルクールは、創立者となるティルダ・ビョルフォスが、パリに滞在中に観たヌーヴォー・シルク(特に当時全盛だった「Archaos」)に触発され、若いアーティストたちとともに、1995年に立ち上げたサーカスですが、NPO団体として、様々な活動をしています。彼らは自身のサーカスを、“コンテンポラリー・サーカス”と呼び、スウェーデンに現代的なサーカスを定着させることを目指しています。

設立当初より、スピーディーで挑発的なステージに若者が熱狂し、スウェーデンでは、どの公演も即完売となるほどの人気です。スウェーデン政府の後押しもあり、世界各国で公演を行っていますが、日本には、2001年に滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールに≪TRIX≫という作品で来日し、2005年には愛知万博とくっつけて、弊社で神奈川県川崎市の川崎クラブチッタ公演(作品:『99% unknown』)を行いました。

cirkorsign

サーカス・シルクールでは、コンテンポラリー・サーカスを、多くの人に体験してもらいたいという活動のひとつとして、1990年からは、障害のある人たち対象の活動も行っています。コンテンポラリー・サーカスのトレーニングは、楽しみながら、勇気づけられるものであり、身体的な機能を改善し、自信をもつことで、社会的なコミュニケーション術も強化しようというものです。

1997年からは、本格的に、スカンジナビア初のコンテンポラリー・サーカス教育を開始します。2005年には、大学教育のシステムに組み込まれ、今日では、それは、「ダンスとサーカスの大学」として運営されています。

これらのことからお分かりいただけるかと思いますが、シルクールは、教育にはとても力を入れており、ワークショップやレクチャー、サーカス・キャンプなどもいれると、年間で約30,000人が、シルクールの教育システムに何らかの形で触れているということです。

cirkorpractice

学校には、27あまりのコースがあり、5才以上であれば、初心者でも参加でき、特徴的なのは、若者も老人も、アマチュアもプロフェッショナルも、障害があってもなくても、一緒に訓練を行い、お互いに刺激しあうということです。 サーカス・アーティストになりたいという夢をもったなら、シルクールの学校に行けば、その夢への第一歩を始められるわけです。

学校やオフィスがあるボートシルカ市(ストックホルム南部)には、シルクール・ラボがあり、海外のアーティストもスウェーデン国内のアーティストも、個人でもカンパニーでも、あらゆるリサーチをしながら、創作活動を行える場所を提供しています。 2003年の訪問時に比べ、スタッフの数が、断然増えていることに驚きました。それだけ、活動がうまくいっているということなのでしょう。

そしてオフィスには犬が!?
話がそれますが、スウェーデンは動物愛護の意識が非常に高く、その徹底ぶりは世界一とも言われています。法律で定められていることはたくさんありますが、その中に、「犬を6時間以上人間の監視無しに置き去りにしてはいけない」というものがあります。6時間以上、家をあけなければならないときは、犬のデイサービス(!)に預けるか、仕事場が許してくれるのであれば、こうして連れてくるということもできるわけです。私の訪問時には2匹いましたが、2匹ともきちんと躾がなされているようで、お利口にしていました。昼休みになると、雪の中をお散歩に出て行ったりもしていました。

cirkorbuilding

話をサーカスに戻しましょう。 今回は、サーカス・シルクールの新作、『Knitting Peace』を観覧しました。直訳すると、“平和を編む”となりますが、その名の通り、舞台美術はすべて白で編まれたもので統一され、サーカスの道具類も、何かしら“編まれたもの”が入っていました。

2005年に招聘した『99% unknown』は、身体がテーマで、観客を、細胞を通して身体内部の旅に誘うものでしたが、実はこれは身体をテーマにした3部作となり、2作目は、『Inside out』という心臓をメインにしての表現作品で、最終作となる3作目は、『Wear it like a crown』という、右脳と左脳の衝突を探求した作品となりました。この2作目と3作目を見逃したことは、とても心残りです。

シルクールポスター

サーカス・シルクールの作品は、すべて創立者であるティルダ・ビョルフォスが作・演出をしています。音楽は生演奏、ユニークな舞台装備と舞台美術、ダンスや演劇との融合というところは、共通しているところですが、新作の『Knitting Peace』は、これまでの作品と少し趣が異なります。

これまでのシルクールの作品は、美術や衣装、照明に、様々な“色”が施されていましたが、『Knitting Peace』は白一色です。どこまでも白白白。真っ白な舞台を、浮き上がらせるようにデザインされた照明の技術は、とても素晴らしいものでした。

劇場内(ロビーも観客席)には、大きさも形も編み方も違う、様々な白の毛糸で編まれたものたちが、展示されていました。これは、HP上で公募し、集まったものだそうです。ロビーでは、編み物のワークショップや、好きなように好きなだけ編んでくださいと、毛糸と編み針があり、観客は入れ替わり立ち替わり、編んでいました。私も少し、編み足しました。

音楽も、これまでのスウェディッシュ・ロック調のものではなく、オルタナティブで、且つよりクラシカルな曲調でした。これまでのミュージシャンが(特に女性シンガー)、インパクトが強かったため、ちょっと拍子抜けしましたが、Portisheadを彷彿とさせる音楽には、すぐに引きこまれました。ミュージシャンはひとりだけ。シンセサイザーとパーカッションを使って演奏していましたが、サーカス・アーティストも、バイオリンを奏でたり(このアーティストは、一輪車に乗ったり、綱渡りをしながらも、演奏していました)、歌を歌ったりと、音楽にも参加します。

これまでの明るくロックで弾けたシルクールとは、少し趣が違うので、暗いと思われる人もいるかもしれませんが、静かに編み糸に絡み取られてしまうかのように、引き込まれていく作品です。前回の身体三部作のように、サーカスのもつ奥深さ、懐の深さを追及する連作になるのではと想像もしています。

終演後には、スウェーデンの観客に、感想を聞く機会を持つことができました。いくつか簡単に紹介します。

  • 演技の組み立て方がおもしろく、ストーリーラインもとてもおもしろかった。
  • サーカスを初めて見たが、創造活動のひとつとして、素晴らしいと思った。
  • サーカス技だけでなく、ダンスをしているような美しい動きが素晴らしかった。
  • アクロバットとダンスを融合することで、サーカスの間口を広げた素晴らしいサーカス。
  • とても詩的で、あらゆる方法を駆使して見せてくれた。シルクールの作品はすべて観ているが、いつも素晴らしい体験をさせてくれる。
  • 体の動きや、コントロールが、マジカルだ。

どの人も、「素晴らしかった!」という感想でしたが、シルクールがどれだけスウェーデンでは有名で、社交辞令ではなく、本当に楽しんでいることが、伝わってきました。ある女性は、「日本の人がノーベル賞を受賞した年に、シルクールは受賞パーティーでパフォーマンスをしたのよ」と、とても誇らしげでした。

作品を作り、公演をし続けるというのも大変なことですが、サーカス・シルクールが、こうして息長く活動を続けられているのは、社会的な活動や教育面での活動を含め、劇場という場所以外のところでも、人々に触れ合う機会がより多く、たくさんの人からの応援があるからではないだろうかと思いました。(大野洋子)

Cirkus Cirkor  http://www.cirkor.se/
『Kntting Peace』 trailer https://www.youtube.com/watch?v=EUq2t65jlr8

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