イタリア・ペンナビッリのストリートフェスティバル
◆2024年6月13日~16日に開催された『ARTISTI IN PIAZZA』という、イタリアはペンナビッリで開催されたストリートフェスティバルに、パントマイム・パフォーマーの加納真実さんのお手伝いで同行してきたときのことを、レポートします。
イタリアは、ペンナビッリというところで毎年開催されているフェスティバル、『ARTISTI IN PIAZZA』は1997年から始まり、世界中から多くの大道芸やサーカスのパフォーマーやミュージシャン、造形のアーティストなどを招聘しています。今年はコロナ後、初の開催となりました。
フェスティバルの期間中は、街に様々な露店や臨時のバーなども立ち並びます。ペンナビッリの街全体で行われるので、街そのものが大きな野外劇場になっているような、とてもステキな雰囲気でした。フェスティバルは毎日夜中の1時まで続き、メイン広場では夜中の3時まで続きます。観客はキャンピングカーで来る人も多く、キャンプをしながらフェスティバルを楽しんでいるようでした。広い草原のような駐車場は車でいっぱいになっていました。
ペンナビッリはエミリア・ロマーニャ州のリミニ県というところにある人口約2,600人の自治体で、山間にあるとても美しいところでした。フェスティバルは、エミリア・ロマーニャ州が経済的な支援をしているようです。
私たちは、イタリアに入る前に、チェコに行き、造形作家のHatoちゃん(https://www.instagram.com/hato888/?hl=ja)の個展の準備を見せていただき、そして、どうせならボローニャで美味しいものが食べたいねということになり、ボローニャまで、スタッフの方に車で迎えにきていただきました。ボローニャからペンナビッリは、車で約2時間ぐらいでした。ボローニャの都市部を出て高速に乗り、途中からだんだんと景色が変わっていきました。迎えにきてくれた車は街の車のようでしたが、電気自動車なので途中で充電しなければならなくなりましたが、日本のように充電できるところが限られているようで、しかも夜だったことから探すのにちょっと苦労していました。
街の車が電気自動車ということから想像できるように、街全体が環境にとても配慮しているのを感じました。「Go Green」という環境に配慮した活動がフェスティバル期間中行われており、各所に置かれていたゴミ箱は木製だったり、パフォーマーたちが食事ができるレストランではプラスチックは殆ど使われておらず、プラスチックのように見えたコップも紙類と一緒に処理ができるような材質だということでした。このレストランでボランティアをしていた大学生は、ボランティアをしながらペンナビッリのエコシステムを学びにきたと言っていました。
山間部なだけにアップダウンが多く、またこの坂の傾斜が急で、下る時には靴の中で足の指が押されてしまうぐらいでした。毎日、気合を入れて歩いたせいか、日本に帰ってから坂や階段が以前よりも楽になったような気がします。
宿舎は街の中心部から徒歩20分ぐらい(かかったように感じました)のところの民泊のようなところで、2階にご家族が住み1階を貸しているような家屋でした。
いろいろと気を使ってくださるとてもいいご家族で、加納真実さんのパフォーマンスも気に入ってくれ、お友達を連れてきてくれたりなど何度も観にきてくれていました。
リリちゃんという黒い犬が番犬がいて、人間の言葉を理解しているかと思うほど、とても賢い犬で、私たちの毎日の癒しでした。
ところでこの街の坂道のアップダウンはただ歩くだけでもしんどいのですが、舞台道具を持っての移動は無理!と判断し、パフォーマンス場所の移動のときは、スタッフの方に運んでいただきました。坂だけでなく長い階段を上らなければならない場所もあったので、これはとてもありがたかったです。
加納真実さんは、海外公演の経験もかなりありますが、イタリアは初めてということで、パフォーマンスの合間にだすサインボードをイタリア語に翻訳するのに苦慮しました。国民性を考えると、直訳では伝わらないこともあるので、イタリア人の友人やイタリア語ができる友人に頼んで、パフォーマンスの意図に沿って翻訳してもらいました。その甲斐もあってか、パフォーマンスは大盛況でした。日に日に観客は増え、街ゆく人々に、「よかったよ!」と何度も声をかけられました。露店の皆さんも観にきてくださった方々もおり、露店に立ち寄ると、「恋人は見つかった?」と作品の内容について、声をかけてくれる方もいました。
笑いは気持ちいいぐらいにドカンドカンと湧き、パフォーマンスと観客が一体になっているのを実感しました。
他のパフォーマンスを見ているときも感じたことですが、観客はフェスティバルを見にきているので、楽しもうという気持ちでいるからというのもありますが、パフォーマーを尊重し敬意を払う気持ちがとても感じられ、意識の高さも実感しました。嬉しかったのは、音響スタッフやボランティアスタッフも大笑いしてくれていたことです。
街の中でも移動がとにかく簡単ではなかったので、他のパフォーマンスはあまり見ることができませんでしたが、とてもよかったのは、静岡にも来日していた、フランスのClaire Ducreux(クレール・ デュクルー)。Fleurir les abîmes(翼を広げて)という、初演となるダンス作品でしたが、円形の小さなステージに1本の木があり、この木とパフォーマーの関係が私たち人間と世界との関わりを表しているようでした。とてもポエティックに静かに作品を進行していきますが、その静けさの中に、平和に対する強い意志のようなものを感じました。
そして面白かったのがフランス版のぞきからくり(のようなもの)。日本ののぞきからくりとは少し違い、円形の筒状の樽のような形のものをのぞき穴からのぞくのは同じかと思いますが、その円形の中は精密に作られた劇場です。舞台があり、そこで繰り広げられるショーと、そのショーを見る観客席の観客たち。観客もひとりひとり微妙に動いたり、ざわめきがあったり、舞台は照明も変わっていったりします。約10分ぐらいの上演で、1回に10名ぐらいしか入れません。観客の背丈を見ながら、あなたはこの穴からと案内されるのですが、私はずっと中腰で観なくてはならなかったので、腰の痛みと闘いながらの観覧となりました。
彼らの移動は車がメイン。時々船も利用するとのことでしたが、作りが精密なので、飛行機には載せられないと言っていました。
パントマイムというノンバーバルなパフォーマンスは身体で見せ、観客を魅了するものなので、世界どこでも通用しますが、今回は改めて加納真実さんの身体表現の豊かさを実感しました。
他の国のフェスティバルのオルガナイザーからも声をかけられたので、恐らく来年もどこかの国に出没するのかもしれません。その時はまた、付き人?で同行したいなあと密かに思いながら帰国しました。
この記事を書いた人
大野洋子
㈱アフタークラウディカンパニー勤務。サーカスプロモーター。ヨーロッパ、アメリカ、南米、アフリカなど様々なサーカスや、他のパフォーミング・アーツのアーティストらを招聘している。海外の人にはよくオノ・ヨーコと勘違いされている。動物好き。