20年後の再会〜フィンランド・サーカス
◆「1000の湖のある国」として有名なフィンランドは、平等な民主主義の国、そして世界で最もきれいな空気の国とも言われ、サンタクロースやムーミンの故郷でもあります。 そのフィンランドから、10名のサーカスアーティストで構成した“フィンランド・サーカス”を、リトルワールド(愛知県犬山市)に招聘しました。
この記事を書いた人
大野洋子
㈱アフタークラウディカンパニー勤務。サーカスプロモーター。ヨーロッパ、アメリカ、南米、アフリカなど様々なサーカスや、他のパフォーミング・アーツのアーティストらを招聘している。海外の人にはよくオノ・ヨーコと勘違いされている。動物好き。
フィンランドとのお付き合いは、1999年に遡ります。今回と同じくリトルワールドに、『北欧サーカス』を招聘した時に、アーティストのブッキングでお世話になったのが、トム・ヘルテルという、フィンランドのプロデューサーでした。トムは残念ながら、数年前に他界しましたが、現在は息子のルネが跡を継いでおり、今回の招聘に尽力してくれました。
そして、この北欧サーカスのメンバーのひとりに、サーカス・フィンランディア(Sirkus Finlandia)というフィンランドで一番大きく歴史のある(1976年設立)サーカスの息子、カーレが、ジャグラーとして入っていました。
カーレは、現在は、サーカス・フィンランディアの跡を継いでおり、それぞれの息子の代になっても、その繋がりは変わらず続いているようです。
この話がどこに着地するかというと、今回招聘した、アークティック・アンサンブルは、昨年このサーカス・フィンランディアに出演しており、私からの依頼をルネはカーレに相談してくれていたこともあり、サーカス・フィンランディアを見にいってくれたルネが、繋いでくれたというわけです。1999年以降、フィンランドのサーカスアーティストを招聘できないかと、トムとは何度もやり取りをしましたが、うまく行かず、20年後にやっと実現できたのは、私にとって、とても感慨深いものがあり、トムが元気だったらと思わずにはいられません。
家庭の事情でグループと一緒に来れなかったルネに代わり、カーレが家族旅行を兼ねて初演に来てくれました。20年という時を経た彼は、立派なサーカスのオーナーになっていました。(下写真:Finland 100 years of successより)
サーカス・フィンランディアは、1年のうち、厳しい冬を除いて、4月〜10月までフィンランド各地で巡業をします。1日〜3日ぐらいの短いスパンで移動しており、最後はヘルシンキで約1ヶ月の公演をして、一年を締めくくります。アーティストは、フィンランド国内のアーティストに加えて、海外のゲストも数組起用。音楽は、ウクライナのバンドを入れて、生音楽で上演しています。
ビジネスはどうかと聞くと、季節や場所によって、アップダウンはあるけれども、なんとかやっているよと。4月はまだ氷が溶けていない場所もあり、キャンセルをせざるを得ないこともよくあるそうです。昨年は、フィンランドのアーティストを多く起用したのが幸いしたそうで、アーティストたちが宣伝をしてくれて、夏の暑い時期でも満員御礼の日が結構あったそうです。
私が一番気になったのが、動物芸です。サーカス・フィンランディアにも動物がいますので、動物愛護団体からの批判はないのかと聞いたところ、ヨーロッパ全体が、サーカスの動物芸を批判する傾向になりつつあった頃に、フィンランドの動物愛護団体には、自分たちがどのように動物たちを飼育し、どのように共生しているのかを、何度も話し合いを重ねて説明し、何度も飼育状況を見にきてもらうという成果があって、動物愛護団体は、「サーカスに動物芸を見に行くのはやめましょう。でも、どうしても動物を見たければ、サーカス・フィンランディアに行きましょう」と言うまでになったそうです。カーレの真摯で誠実な性格が、功を奏したのでしょう。そもそもの考え方の出発点から違うので、相入れない部分は多々ありますし、サーカス団体にとって、動物愛護団体と関わるのは、とても面倒なことではあると思います。しかし、避けたり戦ったりなどせずに、話しあうところから始める事が、大切なのだと思います。少なくとも、私が知っている動物トレーナーは、動物をこよなく愛し、尊重し、ともに生きているのです。とは言え、虐待まがいの、人間の奢った行動を監視するためにも、動物愛護団体の監視も必要だと思いますので、カーレのように、相手の意見も尊重しながら話し合う姿勢というのは、動物芸に限らず、何においても大切なのだと思います。
カーレに今後の夢を聞くと、昨年、大きな倉庫を購入したので、その2階を改装し、フィンランドのサーカス博物館を作りたいということでした。サーカス・フィンランディアだけでなく、フィンランドの他のサーカス団やコレクターに声をかけ、ポスターやチラシ、古い道具や衣装、テントの一部などを、展示する予定だそうです。それが数年後に完成したら、サーカスの常設小屋を作りたいと、目を輝かせて語ってくれました。
今回のフィンランド・サーカスは、コンテンポラリーなものではなく、フィンランド色をふんだんに取り入れた、シンプルなショーとなっています。音楽は全てフィンランドの音楽(音楽の中には、これもフィンランドの音楽だったの?というものも含まれています)。衣装も、伝統的な衣装をベースにアレンジしたものを作っています。芸と芸の転換時には、フィンランドの夏や冬を表現する、ちょっとした小芝居もあり、とても楽しいショーになっています。
フィンランドの神話では、世界は空気の妖精との膝の上に置かれた鴨の卵から生まれたとされています。その殻が破られたとき、世界は創られ、星や太陽、月も創られたとされています。
そのフィンランドの世界を、是非リトルワールドまで、足をお運びいただいて、ご覧いただけたら幸いです。(大野洋子)
この記事を書いた人
大野洋子
㈱アフタークラウディカンパニー勤務。サーカスプロモーター。ヨーロッパ、アメリカ、南米、アフリカなど様々なサーカスや、他のパフォーミング・アーツのアーティストらを招聘している。海外の人にはよくオノ・ヨーコと勘違いされている。動物好き。