コメディアータ(オデッサ)レポート


◆芸人、道化師の三雲いおりさんがコメディフェスティバル「コメディアーダ」に日本人として初めて出演され、「演技賞」を受賞されました。フェスティバルの様子をご寄稿いただきました。ありがとうございます。


「スパシーバ」  この言葉だけで1週間を過ごしました。(笑) 肌で感じたコメディアータは、とても愛にあふれたフェスティバルでした。行くことができて、本当によかったです!

日本が桜満開の時期、ウクライナのオデッサは日本の2月終わりから3月初旬のような陽気でコートや軽いダウンジャケットが必要なくらいの寒さでした。 乗り継ぎも含め19時間の空の長旅を経てやっと現地に到着。まずは迎えの車でフェスティバルが行われる劇場へ。この劇場は以前映画館だったものを改装しているとのことで、入り口の装飾、内装の壁紙、飾ってある写真などはクラウン一色!まさにコメディの神殿のようで、これだけでかなりテンションが上がりました。350席ほどの客席と間口5間奥行き3間、高さ90㎝の舞台で、世界から集まったクラウン、コメディアン、マイミストたちが6日間笑いの渦を巻き起こします。

私は、金曜日と土曜日の夜に行われるガラショーと言われるコンテストに出演しました。出番は金曜日。オデッサに入ったこの日は、夜の4組が出演するショーを観ました。観客席は満席。親子連れ、老夫婦や若いカップル、取材などの関係者など幅広い。ただただ笑いに来ている人がこんなにも多くいることに感激しました。この日も大きな笑い声、声援など大変な盛り上がりをみせました。観客の反応はとても素直で純粋にコメディを楽しんでいるようでした。逆にこれが私の緊張を増幅させたのですが…(笑) 私は、何年も前からやっている「酔っぱらい」のネタをオデッサ用に「スピーチ」としてしゃべらないものに作って演じることにしていたので、言ってみれば初おろしで少し怖さもないわけではなかったですし、普段から緊張する性分なもので、結局本番が始まってもドキドキが続くことになりました。 当日、私は5番目の出演。舞台には椅子とマイクスタンドだけ。音楽は使わない。スピーチをしなければいけない男が緊張して何度も練習したり確認したりする。それでも緊張が続くのでポケットからボトルに入っているお酒を飲む。 そういうことが何度も続き、マイクの前でしゃべる前に泥酔してしまい、その動きなどを見せる作品。 観客は最初から反応はしていましたが、ステージにでて30秒ぐらいはほんとに緊張していて練習用の紙を持つ手が震えていました。緊張している場面だからいいかと開き直ってから、やっと落ち着きました。(笑) 何とか場面は進み、一番の見せ場と思っていた動きでまあまあの反応があり、最期まで演じきりました。いつものように、反省を少ししましたが、この舞台に立つことが出来たのはとても嬉しかったです。

土曜日は出番はないので、昼間は劇場ロビーで開催されているワークショップを見学したり、近くの劇場へ身体を使った影絵の舞台を観に行き、夜は他の出演者のショーを観ました。この日も満席。割れんばかりの拍手歓声、笑い声が響いていました。私も十分に楽しませてもらいました。ひとつ挙げるとすれば、開演時間が何のアナウンスもなく20分ぐらい押すのは…。写真やビデオも撮りまくりでした…。(笑) 影絵のショーも同じだったので、お国柄なのでしょう。 日曜日は4月1日エイプリルフール。オデッサの中心街で市民たちの大々的なパレードが行われました。コメディアータの出演者も全員参加し、大きなオープントラックに乗り、最後の山車としておよそ1,5キロメートルをパレード。沿道にはオデッサの市民が全員集まっているのではないかと思うぐらいの人、人、人。銀座でのメダリストたちのパレードの2倍ぐらいな感じ。 トラックの上では、ダンス音楽をかけ出演者が躍る!踊るポンポコリン!すると沿道の人たちもマスクを付けたり、仮装したりしていて踊る!踊るポンポコリン!今日一日は、おバカになって楽しもうという一日。私も満喫しましたが、トラックの上で1時間30分踊り続けるのはかなりしんどかったです。(笑)そして、パレードは終わり街中のステージでコンテストの受賞者のの発表と演技。この後コンサートがあることで2m高さのあるステージで集まっている観客は、2~3千人ぐらい(笑)一番離れているいる人は天体望遠鏡で見ないと分からないぐらい…(少し言い過ぎかな…)。 賞は、グランプリ、演技賞、技術賞、演出ストーリー賞、好感度賞の5つ。私は、栄えある「演技賞」をいただきました。そして酔っぱらいを短めに演じたが、こればかりは後ろの観客まで伝わったかどうか…? この受賞の前に審査員の一人のフリッシュさんから、私のエンディングが良くないから最後は日本の有名な歌を歌え。とのアドバイスをいただきました。しかし彼が歌ってくれる歌が何なのか分からず…。結局「上をむいて歩こう」に落ち着いたのですが、この時はとても雑然としていたので「北の漁場」のサビを歌いエンディングとしました。すると、すぐに彼が飛んできて「なぜ、上を向いて歩こう(本当は違うけど)を歌わないんだ!」と言い寄ってきたのでした。(笑)いやこの状況だから…と笑ってごまかしましたが。 また、「コメディとは長い旅なんだ。」と真剣に話をしてくる一人もいて、(ロシア語でなく英語で、ですよ)「おれの言うことが分かるか?」と言われて「はい、80%ぐらい…」と答えました。ん~英語の能力ももっとほしいところでした。 このパレードの時、トラックが止まった時に沿道から私のほうを見て「昨日見たぞ、良かったよ!」みたいなことをジェスチャーしてくれる人が2人いました。この人混みで見つけたのも凄いですが(笑)、パレードも含めまた楽しんでくれているんだと思ったら嬉しかったです。さらに、ステージが終わり立っていたら、ウクライナ美人3人組から写真を撮ってくれとせがまれ、かなりいい気になって写真におさまりました。(笑)ジャパーニーズスーパーコメディスター イオリ  ミクモ!!(心で叫んでいました)

さて、夜も受賞者や他出演者たちとのショーがあり、これも立ち見の大盛況!私は前日ほどの緊張もなく、また、3,4名の審査員から言われたアドバイスを受けたので内容などを少し変えて、そしてもちろん今回はラストに「上を向いて歩こう」を歌い、最後にアダモの「雪が降る」をかけてスタンドマイクと踊りエンディングという構成に変えて演じました。この曲をかけて踊るというのは、出番5分前に例のフリッシュさんが楽屋にやってきて曲を用意してくれて、「きっかけは俺が出す。よし、やれ!」と。(笑)まあ、ある意味即興でしたけれども何とか演じきり無事終了。 このショーのあと、審査員数人から昨日よりもすごく良くなったとの言葉をいただきました。フリッシュさんに感謝!このあとの打ち上げでは、「昨日よりとても良くなった」と何人からも声をかけられました。今回、2回だけの(授賞式を含めると3回)舞台でしたが、この経験はとても大きかったです。後になれば、パフォーマーとしての大きな転換期のひとつになることは間違いないと思います。たくさんのコメディを愛する、クラウンを愛する人たちとの時間は、私をもっとも幸せにしました。 さらに感激したのは出演者全員に「参加してくれてありがとう」の感謝状を渡してくれたことです。もちろん、音響さん、照明さん、食事を作ってくれる人(劇場にいれば昼と夜はみんなに食事を作ってくれる)などスタッフ全員に感謝状が渡された。さらに、宿泊者がお世話になったホテルのオーナーなどにも渡されていました。みんなで拍手をし、労をねぎらい、遅くまで素敵な打ち上げは続きました。手作りで、とても粋で心意気もある素敵なフェスティバル。大変勉強にもなりました。 大人たちが笑いを、コメディを真剣に考え、創り、演じ、そして感謝しながら思う存分楽しんでいる感じは、幸福感そのもののような気がします。オデッサを離れる前に、プロデューサーのひとりであるクリューコフさん(28年前ミミクリーチのディレクターでクラウンカレッジと一緒に池袋の舞台に立っています)から「オデッサに来てくれてありがとう。あなたはここに導かれて来たんだ」と言われ、28年の時を経てこの舞台で出会えたことに感慨深いものを感じました。この機会をくれたアフタークラウディーカンパニーの大島さんに感謝します。

でも、ここからが始まりです。私はまだまだこれから面白くならなければいけません。身体を駆使して、言葉をあやつり、道具と友達になり、観客にどこまでも笑って楽しんでもらえる人目指して、長い旅は続きます。 スパシーバ  オデッサ スパシーバ  コメディアータ そのために、せめてあと3つぐらいは、ロシア語覚えよう! 2018年4月11日 三雲いおり

この記事を書いた人

三雲いおり

国内トップクラスの人気を誇るお笑いジャグラー!楽しいトークと様々な技を繰り出しながら、次々と笑いを起こします。